相続に関する基礎知識⑦~公正証書遺言の作成について~
今回は、公正証書遺言の作成について、その作成の留意点を解説します。
公正証書遺言の方式
公正証書遺言は、自筆証書遺言と異なり、遺言を作成したい方(遺言者)がその意向を踏まえ、公証人が遺言を公正証書として作成する制度です。
その作成には、以下のとおり決められた手順があります。
(1)証人が2人以上必要
公正証書遺言そのものは公証役場にいる公証人に作成してもらいますが、その作成手続きに立ち合う証人が2人以上必要です。
この証人について、遺言に一定程度の利害関係ある人は就任することができません。
具体的には、遺言書作成時点の「推定相続人」・「受遺者」、ならびにそれらの者の配偶者や直系血族とされています。
なお、「推定相続人」とは、抽象的なすべての相続人を指すのではなく、当該相続人を相続する地位に在る者を指す、とされています。
簡単にいえば、相続が行われた場合に、当然に相続を受けると推定される人のことを指し、例えば配偶者や子ども(子どもが亡くなっていればその子ども=被相続人からすれば孫)、子供や孫がいなければ被相続人の両親、両親もいなければ被相続人の兄弟姉妹などです。
(2)遺言者が「口授」し、公証人がそれを筆記する
遺言を作成したい方は、公証人の前でその遺言の内容(趣旨)を「口授」します。
簡単に言えば、遺したい遺言の内容を口頭で公証人に説明する、ということです。
この口授を受けた公証人はその内容を筆記し、公正証書遺言の案を作成します。
なお、会話ができない方が公正証書遺言を作成したい場合、手話通訳者や筆談による意思の伝達により、口授に代えることができます。
(3)公証人が遺言者と証人に対し、作成した公正証書遺言を読み聞かせる
公証人は、作成した公正証書遺言の案を、遺言を作成したい方に読み聞かせ、その意思に沿っているか確認します。
遺言者が聞くことができない方であれば、手話通訳によることも可能です。また、遺言者に公正証書遺言の案を「閲覧させる」という方法で意思に沿っているか確認することもできます。
なお、この遺言者の意思の確認については、遺言者本人の意思表示が重要です。その同意として、単にうなずいただけでは足りず、承諾の意思表示が必要となります。
(4)遺言者と証人、公証人が署名押印する
上記の手順を踏み、遺言者が公証人の作成した遺言を承認した場合、遺言者と証人はそれぞれ署名と押印を行い、公証人は正しい形式に則って遺言が作成された旨を明記し、署名と押印を行います。
これをもって公正証書遺言が完成します。
作成した公正証書遺言は、公証役場に保管されます。
公正証書遺言を作成するメリット・デメリット
自筆証書遺言が遺言を作成したい人自ら、誰に知られることもなく費用負担も非常に少なく作成できることに対し、公正証書遺言では公証人の介在があることから、少なくとも「誰に知られることなく」ということは難しくなります。
ただし、自筆証書遺言と異なり、遺言書としての信用度が必然的に高くなりますので、遺言が形式的な不備で無効になるなどのリスクを回避することができます。
公正証書遺言作成のメリットは以下のとおりです。
(1)形式の不備を防ぐことができる
適格な公証人が法令に則り作成する遺言ですので、自筆証書遺言作成に伴うリスクである形式不備による遺言書の無効を防ぐことができます。
自筆証書遺言は自ら好きなタイミングで誰に知られることなく作成できることができますが、その分、法令でその形式がしっかり定められているため、例えば署名漏れ、押印漏れ、日付漏れなど、ちょっとした記載ミスで遺言の効力が無効と判断される恐れがあります。
このリスクを防ぐには、公正証書遺言による遺言書作成が適しています。
(2)紛失などのリスクを無くすことができる
公正証書遺言は、作成後に公証役場に保管されますので、作成していることを忘れられてしまう、紛失、他人による偽造などのリスクを無くすことができます。
自筆証書遺言のメリットとして「誰にも知られず遺言を作成できる」というものがありますが、これは裏を返すと折角作成した遺言が相続人に伝わらない重大なリスクが潜んでいます。
公正証書遺言ではそのリスクが無くなりますので、自筆証書による遺言に比較して非常に大きなメリットとなります。
これに対し、デメリットは以下のとおりです。
(1)遺言を作成した事実やその内容を秘匿できない
証人が2人以上必要であるということは、その証人から遺言の内容が外部に漏れる可能性を否定できません。
勿論、証人にはその遺言の内容に関する秘密を保持する義務が生じますが、絶対に外部に漏れないと言い切れないことがリスクになります。
仮に外部に遺言の内容が漏れた場合、親族間の予期せぬいざござが発生する可能性もあります。
(2)公正証書遺言の作成には費用がかかる
自筆証書遺言は自らの意思で自由なタイミングに作成でき、費用もかかりません。
これに比べ、公正証書遺言の作成では、公証人に対する報酬(数万円程度)など、多少の費用はどうしてもかかってしまいます。
ただし、それを踏まえても、紛失などのリスクを考えれば公正証書遺言の作成は十分なメリットを享受できるとも考えらえます。
まとめ
公正証書遺言について解説しました。
自筆証書遺言のデメリットをカバーする公正証書遺言は遺言を作成する仕組みとして優れており、遺言者にとって安心できる制度です。
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