相続に関する基礎知識⑩~遺言に書いて良いことを簡潔に解説~

遺言は自由に作成できるイメージがあるかと思いますが、法律では、遺言で指定できることが限られています。

記載して良いことを意識しないと、最悪の場合、遺言そのものが無効となってしまう恐れもあり、十分に気を付けなければなりません。

今回は、遺言で書けることとは何かについて、解説します。

そもそも遺言の法的な性質とは

遺言は、財産を遺したいなどと考える方が書面を作成する、ある意味で一方的な行為です。

このため、遺言の中で、遺された方にマイナスとなることも自由に定められてしまうと、遺された方の生活が困難になったり、社会に悪い影響を及ぼす恐れがります。

このため法律(民法など)では、遺言に記載して良いことを限定して列挙しており、それ以外は遺言の効力が及ばないようにしています。

遺言で書いて問題ないこと

1 認知
認知とは、法律上の婚姻関係によらず生まれた子を、その父または母が自分の子だと認める行為です。
民法では、認知は、「遺言によっても、することができる。」とされており、遺言で認知を行った上で、財産を分与することが可能です。
なお、民法では、「認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。」とありますが、遺言で認知することにより、届出を行わなくとも認知することが可能です。

2 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
民法では、「未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。」とあり、未成年者の直近の後見人である人は、遺言により、遺された未成年者のために未成年後見人を指定することができます。
併せて、未成年後見人を指定することができる人は、遺言で、未成年後見監督人を指定することもできます。

3 相続の廃除や廃除の取消し
廃除とは、 被相続人の申し立てなどに基づき、遺留分を有する推定相続人の相続権を失わせることです。家庭裁判所が審判等を行って決定します。
遺言を作成する人(被相続人)は、遺言で、推定相続人を廃除することができます。
その場合、効力は被相続人の死亡の時にさかのぼって生じます。
反対に、すでに相続人の廃除を行っている場合(廃除は生前に可能です)で、遺言によりその廃除の取消しを行うことも可能です。

4 祭祀に関する権利承継者の指定
祭祀とは、神や祖先を祀ることで、例えば葬式・四十九日・一周忌・三回忌などを指すほか、日常的にお祀りすることも含みます。
民法では、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、(中略)慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。」とありますが、遺言によりその祭祀の主宰者を指定することができます。

5 相続分の指定や指定の委託
推定相続人の相続分については、民法でその割合が定められていますが、遺言で、相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます。
なお、相続分を自由に定めることができるとしても、遺留分(法律によって定められた最低限の相続分)は侵害することができないため、少なくともその分は配慮して遺言することが必要です。

6 特別受益の持戻しの免除
民法では、被相続人から、遺贈を受けた場合や、婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生活のために贈与を受けた人がいるときは、被相続人の財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして、相続分の中から遺贈や贈与の価額を引いた残額をもってその者の相続分とする、とされています。
そして、遺贈や贈与の価額が、相続分の価額に等しいかこれを超えるときは、相続分を受けることができない、ともされています。
これに対し、遺言でこの定めと異なる意思表示を行うことが可能です。

7 遺産分割方法の指定や指定の委託
遺言を作成する人は、遺言で、遺産の分割の方法を定めることができます。このことにより、遺産を自由に(遺留分に配慮してではありますが)、遺される人に分配することが可能となります。
また、このように遺産を分割することの定めについて、第三者に委託することを遺言することもできます。

8 相続開始から5年を超えない期間での遺産分割の禁止
上記の遺産分割方法の指定や指定の委託」に関連しますが、反対に、遺言を作成する人は遺産分割を5年を超えない期間、行わないことを遺言で定めることもできます。

9 遺言による担保責任の定め
民法では、「他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。」とされており、担保責任が明記されています。
また、遺産を分割して相続する場合も、その分担した割合に応じて担保責任が発生します。
これらに対し、遺言で別の意向を示した場合、その意思が優先されます。

10 遺産の全部または一部を処分すること(遺贈)
遺言を作成する人は、自分の遺産の全部または一部を遺言により処分することができます。
これを「遺贈」といい、法定されている相続人ではない別の人などに遺産を遺すことが可能となります。

11 遺言執行者の指定や指定の委託
遺言を作成する人は、遺言で、一人または数人の遺言執行者を指定することができます。
これに加え、遺言でその指定を第三者に委託することもできます。

ここまでが民法に規定されている「遺言に記載できること」です。
これら以外に、特定の法律で、遺言に記載できることが定められています。

12 一般財団法人の設立
「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」では、「遺言で、(中略)一般財団法人を設立する意思を表示することができる。」とされており、自らの遺産を、一般財団法人に託すこともできます。
なお、その場合には遺言執行者が定款などを作成することになりますので、遺言執行者をあらかじめ指名しておくか、遺言に記載しておく必要があります。

13 一般財団法人に対する財産の拠出
「一般財団法人の設立」に似ていますが、遺言で、一般財団法人に財産(遺産)を拠出することができます。
具体的には、「遺言で財産の拠出をしたときは、当該財産は、遺言が効力を生じた時から一般財団法人に帰属したものとみなす。」とされており、現在すでに存在している一般財団法人に財産を譲り渡すことが可能です。

14 遺言による信託の設定
信託法では、遺言で信託することを可能としています。
信託することで、遺産の管理・処分などを、自らの第三者である信託会社に任せることができます。

15 遺言による保険金受取人の変更
生命保険などの保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができます。
なお、遺言による保険金受取人の変更は、その遺言の効力が発生した後、保険契約者の相続人がその旨を保険会社に通知しなければ認められません。

遺言の書き方で問題あること(誰かと一緒に署名・押印してはいけません)

遺言で明記して良いことは上で記載したとおりですが、遺言の形式で問題になるものがあります。

それは、例えば夫婦で一緒に遺言を書き、一緒の遺言に署名・押印することです。

遺言は、遺言を作成したい人が自らの意思を遺された方に伝えるものです。

このため、民法では、同一の遺言書の中で、2人以上の人が遺言することを禁止しています。

なお、例えば遺言の中味は確実に1人が作成しており、単に2人以上で署名・押印しただけであることが明確な場合は、その遺言が正式に認められる余地はありますが、その遺言が法的に問題ないか争いとなる危険性がありますので、2人以上で作成することは絶対的に避けた方が良いです。

署名・押印のみ2人以上とすることも避けましょう。

まとめ

遺言に記載して良いことについて、解説しました。

遺言は間違った内容や形式で作成すると、無効となる危険性があり、十分に気を付けて作成しなければなりません。

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次回は、遺言を作成できる年齢や作成したい本人の能力に関する制限などについて、解説します。

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